日本有数の鞄づくりのまちである豊岡市にて、2006年に生まれたブランド「豊岡鞄」。博展では、2022年より同ブランドのブランディング・マーケティングプロジェクトを3年間伴走させていただきました。

ブランドステートメントの策定から、Webサイト・SNSのリニューアルのプロセスを振り返った前編に続き、後編では、プロジェクト期間中にオープンした「KITTE大阪」内の豊岡鞄の店舗デザインや、少子高齢化が進む豊岡市の鞄産業を未来につなぐプロジェクトとして実施した「豊岡鞄とつくる夢のかばんProject」、そして3年間のプロジェクトを経たブランドの展望について、4名の博展メンバーを含む9名のプロジェクトメンバーが語り合いました。

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Index

「豊岡鞄」の歴史と⾼い技術を伝える空間デザイン

玉那覇:プロジェクト期間中、博展さんには展⽰会のデザインにも⼤きく関わってもらいましたが、Webサイトのイメージをそのまま展⽰会でも表現していただけたのがよかったと思っています。今までの展⽰会とはガラッと雰囲気を変えることができたおかげで、訪れたお客様から⾼い評価をいただきました。

ブランド委員会 玉那覇さん

藤原(ブランド委員会):Webサイトが整ったことで、展⽰会をはじめとするさまざまな場⾯での表現にブレがなくなりましたし、ブランドとしてどんなビジュアルを⽬指していけばいいのか、組合員の間でもわかりやすくなったと思います。

藤原(博展):これまでの展⽰会では、たくさんの種類の鞄を配置することで売上につなげる展⽰デザインになっていたのですが、たくさんの鞄をアピールできる⼀⽅で、雑多な印象が⽣まれてしまっていたのではないかと感じたんです。なので、売る場所の展⽰点数を減らし、豊岡鞄の歴史や技術を伝える場所をつくることで、よりブランドのことを理解し好きになってもらう展⽰を提案させていただきました。その後の展⽰会においても、博展が提案したレイアウトをベースに空間を構成していただけているのが嬉しいですね。

また、プロジェクト期間中に「KITTE⼤阪店」がオープンし、テナントとして豊岡鞄が⼊る際の店舗デザインを担当させていただきました。提案に先⽴ち、丸の内の店舗で3⽇間ほど販売員として接客現場に⽴たせていただいたのですが、実際に体験してみないとわからなかったことばかりでした。さまざまなサイズ、種類の鞄をレイアウトする⽅法はもちろん、お客様がお店のどんなところを⾒ていて、販売員の⽅々にとってどのような動線や収納のあり⽅が便利なのかなど、いろんなことを勉強させていただく貴重な機会となりました。

⼦どもたちの夢を職⼈たちが実現した「夢のかばんプロジェクト」

−プロジェクトの3年⽬には、⼦どもたちが思い描く理想の鞄のアイデアを全国から募り、豊岡鞄の職⼈たちが品質保証をクリアした鞄として完成させる『豊岡鞄とつくる「夢のかばん」プロジェクト2024』が実施されました。どのような背景から⽣まれた企画だったのでしょうか?

中島:プロジェクトが3年⽬を迎え、いよいよ豊岡鞄のブランドを社会に向けてどのように発信していくべきかをみなさんと考えていた時に、ちょうど2024年に豊岡鞄がブランドとして18年⽬を迎えることに気づきました。18歳といえば⼈の年齢だと成⼈を迎え、社会との関わりを考えはじめる頃ですし、豊岡鞄として社会のために何かできるプロジェクトを企画できないだろうかと議論していたんです。

全国の地⽅のものづくり現場では、⼈⼝減少に伴い職⼈さんの数も減ってしまっていることから、後継者不⾜や地域産業の維持・発展という⾯で⼤きな課題を抱えています。豊岡市も例外ではなく、このままでは豊岡のものづくりがどんどん下⽕になってしまうので、プロジェクトを通して鞄づくりのおもしろさや豊岡鞄の技術の⾼さを社会に伝える機会をつくり、より多くの⽅に豊岡のことを知ってもらうことで、このまちの地場産業を次につなげることができるのではないかと考えて企画したのが夢のかばんプロジェクトでした。

博展 磯貝さん

磯貝:私はWebサイトのデザインを担当したんですが、受賞した⼦どもだけではなく、参加してくれた⼦どもたちと親御さんが、⾃分事としてプロジェクトに参加できるようなデザインを⽬指しました。親御さんたちが⾃分の⼦どもの作品を探したり、受賞作品紹介のページをスクショしてくれたりしているシーンを想像しながら、温かみのあるWebサイトを意識しています。

『豊岡鞄とつくる「夢のかばん」プロジェクト2024』公式サイト

−先⽇無事に完成した鞄の贈呈式がおこなわれました。振り返ってみていかがですか?

宮下:いや、本当にほっとしましたし、きっと職⼈さんたちもみんな同じ気持ちだと思います。受託⽣産では、⾃分たちがつくった鞄がどこで売られていて、どんな⼈が使っているのかを知る機会はないので、直接⼦どもたちとその家族の顔が⾒られたことが素晴らしかったんじゃないかなと。この経験は今後いろんな場⾯で活きていくんじゃないかなと思いますね。

シナジー委員会 宮下さん

上田:プロジェクト発⾜式の時には緊張して⼀⾔も喋れなかったような職⼈さんが、徐々に話せるようになっていったのも印象的でしたね。やっぱり職⼈なので、⾃分がつくった鞄について語り出すと⽌まらないんですよね。どんどん⼈前で話すことに慣れていく姿を⾒られたのがよかったです。

中島:プロジェクトを通して173点のアイデアが全国から集まり、豊岡鞄のブランドが全国に広がっていくきっかけをつくることができたと思います。贈呈式の当⽇には、プロジェクトに参加した⼦どもたちと親御さんたちが全国から集まってきてくれました。プロジェクトに共感してくれたことが伝わり、やってよかったと感じましたね。また、3年間のプロジェクトの締めくくりとして、今後もこの活動の記録が残り続けるように、プロジェクトが発⾜してから鞄が完成するまでの様⼦を収めた映像を制作しました。このプロジェクトにおける我々の最後の仕事としては、いかにこの動画を多くの⽅に届けることができるかだと思っています。

取材後に公開された映像「プロジェクト総集編」

豊岡の鞄産業を次の100年につなげるために

−本プロジェクトは、ブランディングとマーケティングのためのプロジェクトであると同時に、地域の課題解決につながる取り組みとして、市役所を巻き込んで進められたことが⼤きな特徴だったのではないかと感じます。プロジェクトの進⾏を振り返ってみていかがですか?

博展 上田さん

上田:今回のプロジェクトのように、市の事業でもある複数年の案件に取り組む経験はこれまでなかったので、進め⽅に⼾惑うこともありました。関係者が多くプレッシャーも感じましたが、何事においても宇野さんが真摯に対応してくださいましたし、豊岡の鞄産業を盛り上げていくことに対する豊岡市の熱意を感じることで、こちらもしっかりと応えたいとの思いで頑張ることができました。

藤原(ブランド委員会):僕らが冗談っぽく⾔ったことについても、宇野さんはいつも真剣に考えてくれて、実現できるかわからないことにも前向きに取り組んでくれていましたね。

中島:夢のかばんプロジェクトで⼦どもたちを豊岡の町に呼ぶことができたのは、メーカーのみなさんはもちろん、やっぱり市役所の⽅々にご協⼒いただいたことが⼤きいと思います。メーカーの皆さんにとってのブランドとしてだけではなく、豊岡という産地があってこそのブランドだということもちゃんと伝えるプロジェクトとして進めることができました。

宇野:このプロジェクトをきっかけにより深く鞄業界のことを理解することができましたし、ブランドを広めていくためにはなにが必要なのか、実際に予算を使いながら学ぶことができたのは、市としても貴重な体験でした。来年度以降も続けてほしいという声は所内からもあるため、次のステップに進められるようにしていきたいと思っています。
同時に、今回のプロジェクトは豊岡市としてかなり⼤きな規模でしたし、売上といった⽬に⾒える成果が出ない取り組みであることに⼀部からの反発もあったんです。とはいえ、今後売上を伸ばしていくことを⽬指す必要はありますが、市としてはこの基幹産業を守っていきたいという強い思いがあるので、そのための⼿段の⼀つとして、豊岡鞄のブランドをさらに強くしていかないといけないと思います。

−鞄⼯業組合のみなさんとのやりとりはいかがでしたか?

上田:普段のプロジェクトではひとつの企業を相⼿にすることがほとんどですが、今回は普段やりとりしているメンバー以外の組合の⽅々は、誰も博展のことを知らないような状況だったので、僕らとみなさんの間に⽴って調整をしていただいた植村さんや宮下さんは、相当⼤変な思いをされていただろうなと思います。

中島:プロジェクトが⽌まってしまわないように、組合の中で発⾔⼒のあるみなさんとの調整をうまくやってもらえたことが⼼強かったです。植村さんや宮下さんにしかできないことがたくさんあったので、ことあるごとに頼りにさせてもらっていました。おふたりがいなければ途中でプロジェクトが⽌まってしまっていただろうなと思います。

植村:組合に所属している会社ごとに経営の仕⽅は違いますし、もちろん意⾒の違いはありましたけど、この3年間で今後のブランドを育てていくための基礎づくりはできたのかなと思っています。
運よく僕は40歳前後からこのブランドに携わらせてもらいましたが、僕としては1200年以上続いてきた豊岡の地場産業を、次の100年につなげていくために豊岡鞄をつくったんです。とはいえ、次のフェーズには僕は引退して、組合の他の誰かに任せようかなと思っているので、今後の僕の役割としては、横槍を⼊れてくる他の組合員をなだめていくようなことですかね(笑)。

−最後に、3年間のプロジェクトを振り返って感じていることや、今後の展望をお聞かせください。

上田:豊岡のみなさんが僕らのことを優しく受け⼊れてくれて、こうして終わってしまうのが寂しいですね。僕らなりにできることに尽⼒させてもらった3年間だったので、今後豊岡鞄がもっと知られるブランドへと成⻑し、こうして関われたことを誇れる⽇が来ると嬉しいなと思います。

藤原(ブランド委員会):無事に終わってほっとすると同時に、やっぱり寂しい気持ちもありますね。プロジェクトの最後に夢のかばんプロジェクトの贈呈式とあわせて、KITTE丸の内の会場内で展⽰会が実施できたことも、締めくくりとしていい機会になったと思います。

⽟那覇:豊岡鞄としての軸がしっかりできてきたのを感じていますし、ブランドの背⾻となるものを矯正してもらったみたいな気持ちなので、今後の⾶躍につながるんじゃないかなと感じています。まだまだ豊岡鞄は全国には知られてないので、今後もPRに⼒を⼊れていくために、博展さんにまたお仕事をお願いすることも出てくるんじゃないかなと。これからもみんなでブランドを盛り
上げていけたらと思います。

宮下:今後豊岡が産地として⽣き残っていく上で、もっとも⼤事な3年間だったんじゃないかなと思いますね。組合全体で取り組むことができたので、地場産業として今後成⻑していくために必要なことを学んだプロジェクトでした。豊岡鞄はもっと上を⽬指せるブランドだと思うので、これからも頑張っていきたいと思います。

藤原(博展):私⾃⾝、いつか地元の仕事ができるといいなと思っていたんですが、⽗の相談をきっかけに、想像を超える早さでそのチャンスが来たことに驚いたプロジェクトでした。これまでずっと豊岡の魅⼒をうまく周りに伝えることができないもどかしさを抱えていたので、博展のメンバーへの感謝の気持ちでいっぱいですし、この仕事に関わることができてとても幸せだったと感じています。

磯⾙:豊岡鞄がとても思い出深いブランドになったので、これからもっと強いブランドになっていってほしいという思いがありますし、来年以降はファンとしてみなさんの活動を追いかけていきたいと思います。

中島:この3年間、みなさんとはとても密なコミュニケーションを取らせてもらい、⼀緒に歩みながらいろんなことにチャレンジすることができました。プロジェクトを進めていく中で直⾯した壁に対して、どうやって乗り越えようかとみなさんで考えることができたのは、個⼈的にも貴重な体験だったと感じています。
実は夢のかばんプロジェクトの贈呈式の前⽇まで、テレビで豊岡鞄の特番を組まないかという話がメディアからありました。直前に別のビッグニュースが⼊り、実現することはできなかったのですが、これまでだったらテレビ局の特番企画の審査に通ることはとてもハードルの高いことだったと思うので、3年前から地道にやってきたことが、豊岡鞄のブランド価値を⾼めることに貢献できたんじゃないかなと感じています。また、今回のプロジェクトで年間を通じて公式サイトやSNS、公式オンラインストアへの顧客流入を飛躍的に伸ばすことができ、結果売り上げ増加にも繋げることができました。これからさらに世の中に浸透させ、そして⼀⼈でも多くのお客様に豊岡鞄に共感いただき、購⼊していただくためには、市場や顧客の変化を捉えながらも継続的に情報発信をしていくことが⼤切だと考えています。プロジェクトはひと段落しますが、もし僕らが⼿伝えることとあれば改めてご⼀緒できれば
幸いです。これからも変わらずに、豊岡鞄、そして豊岡の皆さんの活躍を⼼から応援していきます。

OVERVIEW

CLIENT兵庫県鞄工業組合
PROJECT「豊岡鞄」ブランディングプロジェクト

⽇本有数の鞄づくりのまちである豊岡市にて、2006年に⽣まれたブランド「豊岡鞄」。博展では、2022年より同ブランドのブランディング・マーケティングプロジェクトを3年間伴⾛させていただきました。