INTRODUCTION
2021年4月から2022年4月までの一年間、銀座 資生堂本社1Fのウィンドウで展示した「銀座生態図」は銀座を「生態」という視点で捉え、「前期:植物・生き物編」「中期:大地編」「後期:人の営み」という3つのパートで構成し、年間を通して発信。
博展と資生堂の共創プロジェクトであるこの展示は、銀座の街を模した全72区画の棚と、その場所でのフィールドワークによって採取した植物/生物や土壌、さらには人の営みにまつわるものを素材にした作品によって構成されています。
このプロジェクトは海外からも高く評価され、世界の中で最も審査が厳しく受賞が困難とされるイギリスのデザインアワード『D&AD』では「Creative Use of Budget」と「Exhibitions」の2部門においてブロンズ相当の「Wood Pencil」をダブル受賞しました。
銀座という街を生態という視点で再編集し、新たな魅力に着目したこのプロジェクトはどのようなプロセスを辿ったのか。そこにはサステナブルという概念を捉え直すヒントがありました。今回はプランナー 中里とデザイナーの中榮がプロジェクトの舞台裏を語ります。
中里洋介
2018年Hakutenに中途入社。入社前は東京芸術大学で助手を勤め、アート業界に従事していたこともありアートよりのイベントや空間インスタレーションを中心にプランナーとして関わっていることが多い。自宅を改装してアトリエにしてしまうほど創作活動が好き。
中榮 康二
2010年Hakuten入社。ウィンドウディスプレイ、イベント、インスタレーションなどを中心にデザインを行っている。建築を学んでいたこともあり、そのモノや場所のコンテクスト、関わる人など、プロジェクトの特殊性を生かしながら、アプローチしていくことが多い。生態図に関わってから、スパイスとハーブの量が増えた。
PLANNING
あんまり知られてないですけど、
実は銀座にはすごく多様な植物が生息しているんですよ。
中里:資生堂さんとこの共創プロジェクトを始めたのは、確か2020年10月ごろでしたね。
今回は「サステナビリティ」と「銀座」をテーマにした展示にしましたが、そのテーマに至るまで銀座の街をどうやってまとめるべきかを何度も議論しました。
資生堂の取組を紹介するのではなく、銀座という街に既にある魅力や、誰もが気づかず通り過ぎてしまうような魅力に着目した展示にすると、鑑賞者に街そのものへの捉え方が変わるような気付きを与えられるんじゃないかなと考えました。
僕もこのプロジェクトを進めるまで知らなかったんですけど、実は銀座にはすごく多様な植物やそこに関わる生き物などがいるんですよ。
例えば、街路樹は通りごとによって別の種類が植えられているんですが、他の都市と比べて圧倒的に多様な街路樹が咲いていたり、アスファルトの隙間に生えている雑草を調べてみたらミントが咲いていたこともあったんです。面白くなって他の通りも調べてみると、街路樹みたいに計画的に植えられた植物と意図せず生息している生物が混ざり合ってて、とてもユニークな生態系ができあがっていることに気付いたんです。
これらを可視化することは銀座に新しい魅力を付け加えるような足し算の発想じゃなくて、もう既にあるものを再編集して、魅力として伝えるっていう“街のサステナビリティ”なんじゃないかなと思っています。
また、今回のプロジェクトを通した感想としては、「展示物を制作した」というよりは、「街の新しい歩き方を作った」というような感覚に近いですね。展示を見て、「あの通りにミントが咲いているの!?」とか新しい発見があると、そのあと銀座を歩く時には「この辺りにもミント咲いてるかな?」とか、今まで雑草としか思わなかった野良花に目を向けるようになりますよね。
人出が少なくなってしまった銀座の街をテーマに、地域資源を再編集したこの展示を通して、少しでも地域に貢献ができてたのではないかなと思ってます。
KEY FACTOR
毎日銀座を歩いてサンプルを採ったり、銀座で生活を営む人たちに取材したり、とことん銀座を調べ尽くした期間でした。
中榮:「銀座」という街をテーマにした今回の展示のプロセスは、フィールドワークから始まりました。
この展示を考え始めた時、自分たちは銀座を歩くことは多くても、銀座のことをほとんど知らないなって気付いたんです。だから、まずはフィールドワークとして銀座の街をゆっくり歩いてみることから始めました。
すると、植物や生物、さらにそれを育む土壌など、普段は全然意識しないようなものが見えてきて、それをそのまま展示にしたら面白いんじゃないかと考えたんです。
そこからは毎日何時間もかけて銀座の街全ての通りを自分たちの足で歩き、自治体や関係者に許可をいただいた上で、銀座の72区画の全てから生物や土壌など、ありとあらゆるもののサンプルを採取し尽くしました。
銀座でそんなことをしている人はいないんで、街を歩く人たちからは変な目で見られていたんじゃないかなと思います。
また、それと並行して銀座の街に関する歴史も調べようと思ったんですが、実は通りによって異なる自治体が管理していたり、一部行政が管理していたりと関係者が多くいる土地だったので、結果として何十人もの方々に取材をさせていただきました。
銀座の歴史や成り立ちはもちろんですが、街路樹が植えられた背景や銀座で商売を長年営んでいる方の話を聞くと、自分たちの知らない意外な銀座の一面が見えてきて面白かったですよ。
例えば、銀座でハチミツを生産しているハチミツプロジェクトさんからは、「銀座で作られるハチミツはまさに銀座に咲く植物から蜜を採取しているから、山では季節によって蜂蜜が採れない時期もあるけど、銀座はいろんな花が一年中咲いているから、通念で蜂蜜が採れるんですよ」なんて、思いもしないような銀座の一面が垣間見えるお話も伺えました。
中榮:展示の区画に入っているそれぞれの作品はフィールドワークで発見や驚き、そしてその場との関係性を大事にしたかったので、ほとんどその場所で採取した植物や生き物などを素材に作成しました。
また、ただ採取したサンプルを展示するだけじゃなく、フィールドワークで銀座の街を歩いた時の香りや目にしたモノ、感じたことなど、自分たちの感覚とその場所が持つ歴史や文化などの背景も合わせた展示にしました。
例えば、若い人は馴染みがないかもしれないですが銀座と言えば昔から柳の木が有名で、歌にもなっているのでそのレコードと一緒に展示したり、明治38年に植樹されたイチョウには当時の様子を採取した葉っぱに印刷したり。
中にはメジロを模したバードカーヴィングが、好物のセンリョウの実をついばむ動きを再現した展示もあって、一つの作品の中に様々な表現方法が散りばめられています。
また、この作品は少し遠くから全体を俯瞰すると、いろんな種類の生態、シチュエーションを感じることができて、近くで観賞すると場所の歴史と植物の関係性を知ることができるといったように、見る場所によって感じ取れるものが違うアウトプットになっています。
中里:実際に展示を始めると立ち止まって、じっくりと観察してみていただく方が多く、大阪からわざわざこの展示を観に来てくださった方もいらっしゃいました。自分たちがイメージしたものを様々な方法で表現したことによって、観賞者一人ひとりに新しい気づきがあるのではないかと思っています。
NEXT
東銀座に会社を構えるHAKUTENができること
中里:今回の「銀座生態図」を通した気づきは、「見落とされているものに再着目し、その捉え方を変えることで街の魅力に気づくことはたくさんあるんだな」ということです。
地元の人、住民しか知らないような魅力に着目して、アップデートする、クリエイティブへと昇華させることで、表層的なものではなく、地域に根ざした魅力をアウトプットできるから、持続性のある取組になる。
それによって街の捉え方が変わる、そして行動が変わることが体験デザインであり、communincation designを掲げる博展だからこそ、これからもこのような案件を増やしていきたいですね。
中榮:そうですね。体験を通したものや関係性の再編集は、僕らのクリエイティブのあり方のひとつとして積み重ねていきたいですね。
AWARD受賞実績
- D&AD / Creative Use of Budget / Wood Pencil受賞
- D&AD / Exhibitions / Wood Pencil受賞
- THE ONE SHOW / Brand Installations / MERIT受賞
- ADC AWARDS / SPATIAL DESIGN / MERIT受賞
詳細の画像、映像はこちら。
OVERVIEW
CLIENT | 株式会社資生堂 |
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PROJECT | 銀座生態図 |
VENUE | 銀座 資生堂本社 |
CREDIT
Producer | Seishiro Tate |
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Planner | Yosuke Nakazato |
Designer | Koji Nakae |
Reserch & Production | Ryukei Aoyagi / Naoki Nishimura / Yuki Shiwa / Kei Suzuki / Ema Fujiwara / Maiko Mori / Aki Ito / Misaki Ujiie / Shotaro Inahara / Hibiki Ito / Hijiri Sato |
Yu Jungwha / Yohei Honda / Kenji Tsu / Masayuki Sawada / Nobuyuki Shiwa / Ryohei Takekuma / Keiko Nishimura / Yuki Kinoshita / Kazuaki Tani | |
Nagisa Nakamura / Mako Tamura / Takumi Takahashi / Daisuke Masaki / Takuya Hasegawa / Mayu Yamaguchi / Shuichi Narikawa / Riho Moroto |